しかし後輩の成長は不思議なものだと岩水静はそう思う。目の前で眉を潜める山吹薫もまた少しずつ成長しているのだとそう思った。
簡単な心電図の話をしたが、もちろん検査はそれだけではない。血液検査でもそれは確認される。心筋梗塞により心筋細胞が壊死するとそこから様々な酵素が血中に流れ出す。それで心筋梗塞の有無以外にも障害の重症度がある程度予測はされる。
もちろんそうですよね。逸脱酵素と呼ばれるものは臓器の障害により出現しますから、特に心筋に特異的なものが出てきて、もしその量が多かったのならそれは大きな心筋梗塞と言えるでしょうね。
代表的なもので、CPKとCK-MBがあるねー。CPKは心筋梗塞4−5時間で上昇してもちろん他の筋肉の障害でも上昇することはあるねー。でもCK-MBの上昇はかなりの確率で心筋に障害が出たと言えるのねー。
この多忙な救急科で新人が長続きしないことは内海青葉と共に経験はしてきた。だけどもここまで食い下がってくるのは古めかしい思想だと思われても、それは素直に嬉しいと岩水は思う。
他にもトロポニンの酵素も検査される。特に最近ではあるが、最も早期に値の上昇が見られ、かつ90−95%の精度があると言われるな。発症後3−12時間で増え始め、数日間高い値を示すと言われておるのだ。
他にもBNPだねー。これは心筋梗塞による障害というよりも、心臓の状態を知る上でも大切だよー。心不全の病態の程度を知る事が出来るからねー。心不全で入院される方もよく検査されているねー。もちろんこの値が高いと心臓に負担が掛かっていると言えるからこれも要チェックだねー。
様々な検査があるものですね。心臓の受けたダメージを推察する事はリハビリテーションで運動処方する上でも大切ですね。逆に言えば運動負荷自体が大切とはいえ心臓にダメージを与えるかもしれませんから。
やがてこの新人も誰かを指導する事もあるのだろうか。そんな事を柄にも無く岩水は思う。まぁそうするにはまだまだ学ぶ事はあるのだけどな!とフン!と一度鼻を鳴らす。
やはり検査値を理解する事はとても大切ですね。特に急性期場面ではそうですが、過去のデータも知っておく事は、かつてどれだけの障害を受けてそれがどの程度だったのか。それを知る事で、運動負荷を考える事に繋がりそうです。
まぁそういう事だな。情報は幾らあっても足りないという事はないと思うんだよ。俺はだがな!しかし全てを網羅するほどの検査をしている内に症状が進行してもそれは困る。いずれにしても鍛え上げられた人の目が重要なのだ!
まぁ心電図や検査値は実際に冠動脈をその目で見ている訳ではないし、実際に胸を開いて確認するなんて事も余程の場合じゃないと無いからねー。そのために画像検査があるのさー!
まぁ我々とのこの会話で少しでも人に教えるとはどういう事かを学ぶべきなのだろうが、未来はまだ分からんな!と岩水は山吹に巨大な笑みを向けて、その笑顔を眺めつつ山吹薫は不審そうに眉を潜めた。
山吹薫の覚書70
・血液検査では逸脱酵素を確認して、心筋が障害されているかどうか、そしてその程度を推察する。
・心筋の受けたダメージを知る事でその後の運動負荷を検討する事につながる。
・なぜかこの二人が妙に笑みを浮かべている。奇妙だ。
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
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